震災を乗り越えた、宝の海の魅力を伝えたい
福島県沿岸の海は、親潮と黒潮の出会う「宝の海」。豊かな漁場で、ヒラメやカレイ、スズキ、シラウオ、シラスなど約100種類もの魚介類が水揚げされている。それらは「請戸(うけど)もの」と呼ばれ、高い評価を得てきた。しかし、請戸漁港は福島第一原発から6キロに位置するため、震災後は近づくこともできない状況へと追いやられてしまった。
被害を乗り越え、人々の熱い思いを乗せて、2020年4月に請戸漁港の競りが再開した。放射性物質検査では安全性が確認されている。しかし、福島県産品に対する消費者の不安は充分にぬぐえていない。
ガッチ株式会社は、販路拡大・販売量増加を図り、国内のみならずインバウンドの需要につなげることを目的に、浪江産の食材を有名店のシェフが料理し、インフルエンサーに体感してもらうイベントを展開した。
一流シェフも認める「請戸もの」の魅力
「請戸もの」のスペシャルコースを考案するのは、イタリア語で喜劇を意味する「commedia(コンメディア)」の山口大輔氏。イタリアのピエモンテ州とマルケ州で料理を学び、ミシュランガイドに掲載される名店「アロマフレスカ」の黄金期を支えた。優れた技術を持ち、生産者に会い食材を仕入れるほどの探究心を持つシェフだ。
「浪江産ヒラメのカルパッチョ」「浪江産玉ねぎの丸ごとスープ」「北寄貝のなみえ焼きそば」「請戸港産ワタリガニを使った渡り蟹と蕪のリゾット」など、素材の魅力を存分に生かしたコースは9品。舌鼓を打つのは、全国で料理を食べ歩いてきた舌の肥えたインフルエンサーたち。「請戸もの」の魅力と美味しさを、彼らの言葉で発信する。
取り組みは国内だけに留まらない。日本料理店も多く存在するなど、日本に関心の高いタイのバンコクで、浪江町の海産物と日本酒のコースをインフルエンサーや飲食業界のプロに食べてもらうイベントも開催した。
「請戸もの」の魅力が世界へひろがっていく
「請戸もの」の良さを伝えるために必要なことは、出会いの場をつくることであったのかもしれない。「全国的に見ても一級品である」と、山口シェフは「請戸もの」のヒラメや浪江産にんにくの取り扱いを始めた。「請戸もの」を取り扱いたいという問い合わせが届いたり、イベントをきっかけに鈴木酒造店の貴醸酒「海」「山」の本格輸出の開始も始まった。