宮城県石巻に、モリウミアスという宿泊型体験施設がある。ここで使う食器を開発することになり、同じ東北の大堀相馬焼と、石巻を代表する雄勝硯が幸運な出会いを果たした。硯を生かした黒の世界観、そこに伝統的価値をプラスした器は、リリースと同時に三つ星レストランの目に留まり、世界にも進出。地域の未来を照らす「クロテラス」の開発ストーリーを追う。
持続可能な地域と、こどもたちのために。
宮城県石巻市雄勝町は、国内有数の和硯「雄勝硯」の産地として名を馳せる。起源は室町時代。戦国武将の伊達政宗もその美しさの虜となり、硯師を藩に召抱えたほどだった。「艶やか」と表現される純黒色の美貌は、原料となる黒石硬質粘板岩の賜物。変質のしにくさから建築資材のスレートとしても珍重され、東京駅の駅舎の屋根にも、この素材が採用されている。
2002年に廃校となった、雄勝町の旧桑浜小学校。東京駅と同じ雄勝硯の屋根をした校舎は、築100年を数える歴史の証人。東日本大震災で震源に近かったまちは実に約8割の建物が失われたが、高台の校舎は生き残り、こどもたちと地域のための学び舎「モリウミアス」として生まれ変わっている。
モリウミアスは、宿泊体験を主とする教育施設である。さまざまな体験を通じて豊かな森や海と向き合い、自然と共に生きることを学ぶ。その完成前、施設のコンセプトにふさわしい佇まいを一つひとつ整えていく中で、「食事用の器を同じ東北の大堀相馬焼でつくれないか?」というアイデアが浮上した。
雄勝硯の、可能性をデザイン。
大堀相馬焼の職人にこの話をもちかけると、意外な事実がわかった。かつて、大堀相馬焼では雄勝硯を砕いたものを釉薬として使っていたと言う。石を砕けば、顔料になるのだ。硯そのものは高価で加工も難しいが、普段、捨ててしまう硯の削くずが利用できる。さっそく、プレートを試作することになった。大堀相馬焼に特徴的な緑色の、半分に純黒色の釉薬をかけた。
ところが、双方の質感が異なり、しっくりこない。国の伝統的工芸品に認められる焼物と硯、そのコラボレーションなのでどちらの特徴も残したい。しかし、際立ったのは中途半端さ。そこで、潔く「真っ黒」な器を目指すことにした。世の中にある食器を見渡せば、白が大半。黒はほとんどない。黒の世界観でブランドをつくろうと考えた。
大堀相馬焼を、雄勝硯を砕いた顔料にくぐらせて、焼く。プロトタイプは、茶色に近いプレートになった。実際にモリウミアスで使ってもらいながら、トライアンドエラーを繰り返した末、着地したのは、指紋が付かないマットな質感。黒には、雄勝硯らしい艶感が漂っている。
黒が、世界中の未来を照らす。
命が吹き込まれたブランドには、その輝く黒い光が「食卓の笑顔を照らし、みんなの明日を照らし、東北の未来を照らすように」との思いを込めて、「クロテラス」と命名。漢字では「黒照」、英語では「croterrace」と書く。器を通じて人々が「cross(交差する)」、そして集まった人々が集まり光降り注ぐ「terrace(テラス)」を連想させる。
角皿、丸皿、飯碗にマグ、豆皿まで各種展開するクロテラスの顔見世は、2017年の東京インターナショナルギフト・ショーで行った。そこで、ブランド開発に至る物語が共感を呼び、LIFE×DESIGNアワード・ベストストーリー賞を受賞。その年のグッドデザイン賞にも輝くと、瞬く間に話題は広がった。東京・南青山のレストラン「NARISAWA」をはじめ、数々の星付きレストランで料理を演出している。
構想は、モリウミアスの食卓から始まった。今後は、ニューヨークやパリの見本市にも進出。東北を、日本を代表する2つの伝統的工芸品の幸福な出会いは、まだまだ、大きな可能性を秘めている。
これまでの成果
- 売上
- 1500万円(2019年7月累計)
- 成約数
- 20件
- メディア掲載
- 10件
- 販売国
- 日本、台湾、中国、香港、アメリカ