江戸時代に興った大堀相馬焼は、国の伝統的工芸品の一つ。ところが、東日本大震災の影響で窯元のある地区は封鎖され、多くの窯元が廃業に追い込まれた。そんな中、崩壊したものを再構築するように新ブランドを誕生させ、日本酒の世界にも新たな価値を巻き起こしている窯元がある。科学的検証を取り入れ、松永窯が“発明”した陶器「IKKON」とは?
350年の伝統を、絶やさない決意。
大堀相馬焼は、福島県双葉郡浪江町の大堀という土地で生産されてきた民陶である。歴史の始まりは江戸時代初期の1690年。相馬藩の保護のもと特産品として興り、各地に名が知れると益子焼などのルーツともなった。国の伝統的工芸品にも指定されている。
「青ひび」と縁起の良い「駒絵」に加え、唯一無二の「二重焼」構造が最たる特徴。この伝統は、江戸から明治への転換期、全国に焼物の産地が増え、シェアをめぐる競争から抜きん出るために生まれた。今なお受け継がれるアイデンティティだ。「二重焼」は「Double Cup」という名で、戦後、アメリカをも席巻した。
2011年3月11日、東日本大震災発生。浪江町は帰宅困難区域に指定され、大堀相馬焼の窯元25件が離散。それでも350年の灯火を消すまいと、現在までに10件の窯元が町外で再興している。松永窯(松永陶器店)もそのひとつだ。
大堀相馬焼が組合を挙げて復興を目指す中、福島県西白河郡西郷村で再建した松永窯も、従来の作陶に留まらず、新たな価値を提案したいと、道を模索した。思い描いたのは、「二重焼の構造を生かした、まったく新しい器ができないだろうか」ということだった。
科学的根拠が裏打ちする、新ブランド「IKKON」。
ヒントは、ワイングラスにあった。ワインを飲むとき、その銘柄にふさわしいグラスが選ばれる。グラスの形状によって、味が変わるからだ。しかし、陶器でグラスをつくるのは難しい。ならば、酒器はどうだろう。日本酒を飲むシーンで、ぐい呑みを選び、味の変化を楽しむという価値はまだ確立されていなかった。追い風が吹くように、日本酒ブームが起こっていた。
考えたのは、いずれも二重構造でありながら、それぞれ内側の層の形状が違ういくつかの酒器。試作は実験からスタートした。まず、3Dプリンターで樹脂の器をつくり、味がもっとも変わりやすい角度をプロファイリングした。さらに、AIの知恵に頼り、味覚センサーで味を可視化。日本酒×ぐい呑み×食べ物の組み合わせによって得られる人間の味覚を、甘味、旨味、塩味、酸味、苦味からなる五味から数値化するのだ。科学的根拠に裏打ちされ、「IKKON」は誕生した
IKKONは、器と日本酒の出会いを演出し、日本酒の新しい飲み方を提供するブランドである。見た目を同じくする3種のぐい飲みは、表面に施された刻印のとおり、それぞれ内部の形状が違い、一つの酒の多様な表情を楽しませてくれる。丸みのある浅型の「ラウンド」は香りと旨味が広がるまろやかな味わいに、底に向かって形状が狭まる「ナロー」は飲み進めるごとに味が変化し、直線的な「ストレート」は五感でダイレクトな味を感じられる。
これまでの成果
- 売上
- 売上 1500万円(2019年7月累計)
- 成約数
- 20件
- メディア掲載
- 10件
- 販売地域
- 日本、台湾、中国、香港、アメリカ